JTB商事の取り組み
宿に寄り添う営業で「実感価値」の向上へ
――JTB商事の主な事業は。
「宿泊施設に対して、タオルやアメニティなどの消耗品や、家具、電化製品、装備品、それから建装、デザイン、工事関連のサービスなど、『快適さ』や『魅力づくり』という観点でしっかりとサポートすること。この事業が売り上げ全体の9割を占めている。それ以外の部分では、旅や快適さをテーマとする商品を掲載したBtoCサイト『JTBショッピング』の運営や、宿泊をメインとしたカタログギフト『たびもの撰華』の販売などを手掛けている」
――旅館・ホテルに対する販売に関して今、最も力を入れていることは。
「JTBグループでは『お客様の実感価値向上』という言い方をしているのだが、お客さまのニーズにしっかりと応える。お客さまにしっかりと寄り添うという営業スタイルを忘れないようにしたい。コロナで環境が大きく変わってきてる中、私は会社で『柔軟性』と『デジタル推進』の二つがキーワードだと言っている。過去の慣例に基づいて営業するのではなく、環境の変化にしっかり合わせ、柔軟に取り組む。もう一つのデジタル推進は、単に効率化を図るだけでなく、その商品を使うお客さまのニーズをデータに基づいて改めて検証するなどして、経営者目線でのコンサルティング的な営業をしっかりやっていけるようにしたい」
――コロナ禍でどんな商品が売れている。
「お客さまニーズがあるのは感染防止や衛生管理に関する商品だ。新型コロナが流行し始めた頃はマスクやアルコールなどの注文が大半だったが、昨年5月に『宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン』が策定された頃からは、検温システムや非接触で案内できる商品であったり、抗菌、防菌に効果があるような工事関連であったり、その宿泊施設が抱えるさまざまな事情に合った感染防止や衛生管理に関する依頼が増えてきた」
――新商品として先般、環境に配慮したアメニティシリーズ「mugicara(むぎから)」を販売した。
「むぎからは、CO2排出とプラスチック使用量を削減するアメニティだ。再生可能な麦わらを原料とする歯ブラシやヘアブラシ、レザーなどをそろえた。また、包装や、その印刷に関しても環境にやさしい材料を使用している」
「SDGsの推進に向け政府主導でいろいろ動いているので、わが社では環境に関する取り組みに力を入れているところだ。その取り組みには二つの観点がある。一つは、環境に配慮した商品の開発や販売などを行うこと。アメニティについては紙製のレザーなどメーカーが今いろいろなものを作っているので、商事会社として、むぎからに限らず、各種のラインアップを取りそろえ、お客さまの要望にしっかりと応えて提供している。海外の富裕層はSDGsへの意識が高い。環境配慮型の商品は、これから復活するであろうインバウンド客に特に注目されるはずだ」
「もう一つは、プラスチック製品のリサイクル。プラスチック再生を手掛ける会社などと協力して、旅館・ホテルが廃棄するプラスチックを集め、もう一度、製品にするという流れを作りたい。今、その仕組みができるか検証中だ。リサイクルは大きな課題と意識してしっかりと進めていく」
――4月に社長に就任してからおよそ半年。改めて抱負をうかがいたい。
「旅館・ホテルはもちろん、仕入先、製造元などの関係先から、働いている社員にとっても、JTB商事という会社が魅力的に映るようにしたい。それが第一だ」
――旅館・ホテルに伝えたいメッセージは。
「旅館・ホテルは、おもてなしのソフト面も含めて日本の観光資源そのものであり、日本の財産だ。その繁栄なくして観光業の発展はありえないので、今、コロナ禍で苦しい時期ではあるが、JTB商事1社ではなくてJTBグループとしてさまざまな角度からお役に立ちたい。今、政府や自治体からの補助金を活用して、旅館・ホテルではお客さまを受け入れるための準備をいろいろ整えている。これについてもJTBグループをあげていろいろな形で支援していきたい」
「社員には常日頃、『今年中に潮目が変わる』と言っている。今からさまざまな準備をしておけば、旅行、観光の回復期に出遅れることはない。この危機を乗り越えるため一緒に頑張りましょう」
かとう・ゆうじ=1965年2月4日生まれ。愛知県出身。88年に日本交通公社(現JTB)に入社し、JTB西日本総務部長、神戸支店長、JTB常務執行役員総務部長などを歴任。2021年4月から現職。
【聞き手・板津昌義】